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自信がなかったからではなく、フレイヤがどうしてもと履かせたハイヒールにまだ慣れず、ぎこちなかったせいで、私はゆっくりと足を踏み入れた。彼女は私の出勤初日の服装を選ぶのに、それはもう大はしゃぎだった。体にフィットした半袖のシンプルな黒いドレスに、ひときわ目を引く真っ赤なヒール。彼女の指示は明確だった。強烈な印象を与え、周囲を圧倒するような格好をしなさい、と。中に入った途端に突き刺さる、鋭く好奇に満ちた視線から判断するに、彼女は正しかったようだ。敷居をまたいだ瞬間から、空気中の敵意が肌で感じられた。

受付へと向かいながら、今日、生まれて初めて、生涯ずっと軽蔑してきた名前で自己紹介しなければならな...

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