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どうやって職場まで辿り着いたのか、記憶が定かではなかった。思考に完全にとらわれていた私は、銀行の本社へ向かう車中、エリオの存在さえ無視してしまっていたかもしれない。車を降り、スカーフを巻いていない無防備な首筋や頬に冷たい風が突き刺さるのを感じて、ようやく現実が焦点を結んだ。その鋭い冷気が、ハドリアンの冷ややかな唇が肌を掠めた感触を思い出させ、私の口元に締まりのない笑みが浮かんだ。幸いにも、ビルの入り口の反射ガラスに映った自分の愚かな表情に気づいたのは、誰かに見られる前だった。私は恥ずかしさのあまり、自分への戒めとして両手で頬をパンと叩いた。

エレベーターに乗り込むと、他の従業員たちと同乗する...

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