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ルシアンの執務室を出ると、すれ違う人々から向けられるお辞儀や挨拶が、少しだけ気まずくなくなった。彼らの敬意にどう応えればいいのかはまだ分からなかったが、少なくとも以前のようにパニックに陥ることは抑えられるようになった。自分のオフィスに着くと、見慣れた長身の、漆黒の髪を持つ人影がドアのそばで待っていた。

「クルースさん!」興奮に弾む声で呼びかけ、私は駆け寄ってその首に抱きついた。

「け、ケスラー様……ど、どうか……」イカロスはどもり、気まずそうな笑みがその不快感を物語っていた。彼は廊下を不安げに見回している。

「ごめんなさい……ちょっとやりすぎちゃった」私はいたずらっぽく笑いながらそう認め...

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