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私は凍りついたように、彼の瞳をじっと見つめた。腕の中に引き寄せられ、髪を撫でられる。私をなだめようとする、その手つき。なのに、その試みは虚しく感じられた。父の名が彼の口から出た瞬間から、私の心臓は不規則に激しく鼓動していたのだ。他のどんなアルファの存在も無視できたかもしれないが、彼だけは違う。今、こうして防御を固め、同じくらい強力な誰かが隣にいてくれても、カシウス・マーウッドの視線と交わることを考えただけで、恐怖に体がすくむ。私は臆病者なのだろうか? たぶん、そうだろう。でも、彼の存在が放つ重圧が、私を自分史上最も脆い存在に貶めてしまうことは否定できなかった。

「な……なんで、あの人がそこに...

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