第5章

 六本木ヒルズでの個展まで、あと一週間。

 成瀬蓮はついに、「平成と令和を繋ぐ最高傑作」と豪語していたメインの絵を私に見せる気になったらしい。

 アトリエの中央、巨大なキャンバスには黒い布がかけられている。成瀬は賞を待つ子供のように、期待に満ちた目で私を見ていた。

「冴、準備はいい?」

 私は頷く。

 彼が勢いよく黒布を剥ぎ取った。

 その瞬間、覚悟はしていたものの、やはり反吐が出るような感覚に襲われた。

 タイトルは『ミューズ』。

 描かれているのは、背中を露わにして振り返る女の姿。光と影は曖昧で、色彩は強烈だ。

 顔は抽象的にぼかされているが、鎖骨の上のあのほくろだけは...

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