第106章

会社に戻った未来は、抱えていた書類をデスクの上に放り投げた。

それは羽龍から渡された小切手と、明孝がサインしたプロジェクト譲渡書だった。

手の中にある確かな「実利」を眺めながら、彼女は肺の底に溜まっていた澱んだ空気を長く吐き出した。杏那と顔を合わせたことで生じた吐き気も、これらのおかげで幾分か和らいだようだ。

実の親への情など当てにならない以上、最後に頼れるのは利益だけだ。

手札さえ握っていれば、あの父親とて、娘の扱いを慎重に考えざるを得なくなる。

夕刻、オフィスにノックの音が響いた。

「コン、コン――」

和紗がタブレットを手にドアを開けて入ってきた。その表情は硬い。

「未来...

ログインして続きを読む