第79章

「好きにしろ」

その言葉が未来の口の中で反響し、まるで鋭利な氷の棘となって、胸を冷たく突き刺した。

彼女は頭を振った。今は感傷に浸っている場合ではない。もっと重要な、処理すべき案件があるのだ。

未来はハンドバッグを手に取ると、それ以上留まることなく笠原邸を後にし、車を走らせて会社へと向かった。

オフィスビルのエントランスに足を踏み入れた瞬間、未来は鋭敏に空気の異変を感じ取った。

普段は活気のあるフロアが、不気味なほど静まり返っている。数人の社員がスマホを囲んで小声で囁き合っていたが、彼女の姿を認めるや否や蜘蛛の子を散らすように自分の席へ戻り、仕事に没頭するふりをした。

だが、その...

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