第90章

杏那は首元の冷やりとした宝石を愛おしげに撫でると、満面の笑みを浮かべて甘えた声を出した。

「すごく嬉しい。ありがとう、羽龍」

羽龍は顔にこそ張り付けたような薄笑いを浮かべていたが、その視線は意思に反して隣のテーブルへと吸い寄せられていた。

未来が傷つき、歪んだ表情を見せることを期待して。

だが、彼女は羽龍のことなど眼中にすらなかった。

隣に座る男に顔を寄せ、羽龍には一度も見せたことのない、心からの柔らかな笑みを向けている。

まるで、そこだけが二人だけの世界として完結しているかのようだった。

得体の知れない怒りと鬱屈した感情が綯い交ぜになり、羽龍の胸の奥でどす黒く渦巻いた。

レ...

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