第116章

江原朱美が部屋に戻ると、丹生谷智久がベッドの足元に置かれたソファで待っていた。

天井灯は点けていない。灯っているのは、ベッドサイドの暖色のスタンドだけだ。背後から光を受けた彼の顔は半分が影に沈み、もう半分は輪郭だけがくっきり浮かび上がっている。手には、すっかり冷めた茶。朱美が扉を押し開けたのを見ると、彼はカップを置き、立ち上がって二歩だけ近づいた。

「話、終わった?」

夕飯でも訊くみたいな、淡い調子。けれど朱美は見逃さない。立ち上がる動きが、いつもより半拍だけ速い――抱きしめに来るのを、必死に堪えている。

「どうして、何を話したか聞かないの?」

朱美は彼の前まで歩み寄り、見上げた。...

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