紹介
彼女の夫は最前列に座り、見知らぬ者たちが彼女の腹の中のまだ生まれぬ息子の臓器を競り落とすのを見ていた。彼はあの動画を信じた。DNA鑑定の結果を信じた。あの女の嘘を信じた。
彼らは彼女の子供を奪った。母親を奪った。そして、彼女の正気さえも奪おうとした。
だから、彼女はわざと壊れたふりをした。電気ショックを受けながらも、微笑み続けた。拷問で腰は曲がり背は丸まっても、決して屈しなかった。彼女は自分の命を奪うはずだったあの手術までの時間を、静かに数えていた。
しかし、彼女が数えていたのは自分の死ではない。
彼女が数えていたのは、彼らの死だった。
彼らは彼女の心臓が欲しいのか?
ならばくれてやろう——まだ脈打つその心臓を。そのとき、彼女は彼らの裁判官となり、陪審員となり、処刑人となる。
コンテンツ警告:非同意性行為、残虐な暴力描写、流産、監禁。閲覧にはご注意ください。
チャプター 1
腹の底をずしりと引き下ろす痛みに、江原朱美は目を覚ました。
反射的に床から起き上がろうとする。だが、身体がまるで動かない。
そこでようやく気づいた。
自分が全裸のまま、縛り上げられていることに。
しかも――思わず奥歯を噛みしめる。
それは、あまりにも屈辱的で、あまりにも淫らな姿勢だった。
両手は背中で麻縄に縛られ、乳首にはクリップ。脚は無理やり大きく開かれ、M字に固定されている。秘部はそのまま、空気の中へさらされていた。
冷えた空気が陰唇のあいだを撫でていくのがわかる。ぞくり、と震えが走る。
縄から手を引き抜こうともがいた。けれど、びくともしない。
結局、淫らな格好のまま周囲をうかがうしかなかった。
目の前は闇。黒いビロードのような布が四方に垂れ、光をすべて遮っているらしい。
そのときだ。
いくつもの足音が近づいてきた。続いて、誰かの話し声――笑い声まで混じっている。
次いで、鼻をつく異臭。
腐敗、汗、酒に酔ったような甘ったるさ……何が混ざっているのか、言葉にできない。ただ、吐き気だけがこみ上げる。けれど胃は空っぽで、吐きたくても吐けなかった。
ここはどこ?
どうして、こんなことに……?
藤原創は?
彼が差し出した牛乳を飲んだところまでは、はっきり覚えているのに――。
思考がまとまる前に、幕がばさりと開かれた。
突然の光に、江原朱美は思わず目を閉じる。
「うっわ、やべえ……綺麗すぎるだろ。このマンコ、形だけなら俺が見た中で一番だわ」
「しかも妊婦かよ。弄ったら最高にヤバそうだな」
……。
下卑た言葉だった。
怒りで全身がわなわなと震える。
この淫らな姿を、もう大勢に見られている。
絶望が喉を締めつけた。どうしてこんなことに? 藤原創はどこに――。
ようやく目が光に慣れ、ゆっくりとまぶたを開く。
最初に目へ飛び込んできたのは――夫、藤原創だった。
仕立てのいいスーツを隙なく着こなした男が、椅子に腰かけている。整った顔立ちは凍りついたように冷たく、こちらへ向ける視線はそれ以上に冷え切っていた。
その隣にも、背後にも、さまざまな男たち。
彼らの目には欲望と侮蔑がべったりと張りついている。
視界の端で、ようやく状況がつながった。
巨大な鳥籠。
自分はその中へ閉じ込められ、展示台の上に置かれている。しかも秘部がそのまま客席へ向くように。
夫は、その客席のど真ん中。
冷たい目で、ただ見下ろしていた。
――ここは、競売会場。
そう理解した瞬間、心が音を立てて崩れた。
藤原創の口元が、薄く歪む。
「目が覚めたか?」
声が震えた。
「藤原創……何をしてるの……私、あなたの子を……もう9か月なのよ……臨月なのに……!」
「腹に子がいる自覚はあるんだな」
藤原創は鼻で笑い、氷のような声で言い放つ。
「江原朱美。6人だか7人だか知らねえ男に股がって、雌犬みてえに『もっと』って腰振ってたときは、腹の子のことなんか一度でも考えたか?」
「違う! してない!」
信じられなかった。藤原創が、こんな言葉で自分を貶めるなんて。しかも、そんなことは一度だってしていない。
否定の声を待っていたかのように、藤原創は手元のリモコンを押した。
次の瞬間。
女の喘ぎ声が、会場いっぱいに響き渡る。
競売品を映し出す巨大スクリーンに、映像が流れた。
そこにいたのは、裸で、這うように跪き、膨らんだ腹をベッドへ押しつけた女。背後から太い男根が膣に出入りし、女は喉を反らし、口にも別の男根を咥えさせられている。頭を抱え込まれたまま腰を打ち込まれ、妊娠で張った乳房は別の男たちに弄ばれ、その上には乳交のあとらしい精液がこびりついていた。さらに、別の手が肛門へ指を差し込み、掻き回している。
顔にも、身体にも、体内にも、男の精がべったり。
淫らで、狂っていて、悪夢そのものだった。
江原朱美は目を見開いた。声が出ない。
「……違う……私じゃない……偽造よ……罠よ……江原幸子が――」
「また罠か?」
藤原創はぴしゃりと遮った。
「9か月前、俺のベッドに潜り込んだときも『薬を盛られた』って言ったな。お前のスマホからこの動画が出てきたときも『幸子が捏造した』って言った」
「江原朱美。お前のスマホから出たんだ。お前が気持ちよくなって、記念に撮らせた以外に、誰が撮れる?」
会場の男たちがどっと笑う。
「膣に入れてる奴、短すぎだろ。俺ならイかせすぎて白目剥かせるぜ」
そんな下卑た品定めまで飛び交った。
胸が痛くて、息ができない。
そうだ。彼が私を信じるはずがない。幼いころから寄り添い、何度も彼を救ってきた江原幸子が、実は腹の底まで黒い女だなんて、信じるはずがない。
「違う……本当に、はめられたの……あの夜も、薬を……」
力なく、同じ言葉を繰り返す。
この9か月、何度も、何度も言った。
けれど藤原創は一度たりとも信じなかった。
今も同じだ。
その顔には、あからさまな嫌悪すら浮かんでいる。
「はめられた? 藤原玄哉が記者を連れて、あんな都合よく現れて『お前が俺に犯された』って騒いだのも、はめられたって言うのか?」
「江原朱美。お前、よっぽどその婚約者が好きなんだな。助けたくて、自分から尻振って、雌犬みてえに俺に『抱いて』って懇願したんだろ」
「黙って!!」
ついに江原朱美は崩れ落ち、涙が頬を伝った。
藤原創は冷笑し、傍らの人間へ短く命じる。
ほどなくして、白衣の医師が3人、医療鞄を提げて入ってきた。後ろには助産師も続いている。
「何をするつもり!?」
悲鳴のように声が裏返る。
藤原創は冷淡に言った。
「遊ぶのが好きなら、腹に子がいるのは邪魔だろ」
そして医師たちへ視線を向ける。
「始めろ。麻酔は使うな。薬効が落ちる。幸子は待てない」
医師が一瞬ためらった。
「藤原さん……奥様は胎位がよくありません。このまま麻酔なしでは、持たない恐れが……」
「死にゃしない」
藤原創は切り捨てる。
「さっさとやれ。客が待ってる」
話しているあいだにも、腹の痛みは限界を超えていた。
もう藤原創の言葉をまともに追えない。耳に残るのは「麻酔なし」「江原幸子」「客」――その断片だけ。
私が子どもを産むことと、客に何の関係があるの?
激しい陣痛が、思考を奪っていく。
腹の中へ誰かが手を突っ込み、好き勝手に掻き回しているようだった。
もがくたび、縄が肉へ深く食い込む。
だがそんな痛み、陣痛に比べれば無に等しい。
――出てくる。
赤ん坊が、腹の中から。
身体が裂ける。
二つに引き裂かれるような痛みに叫び続け、最後には喉が裂けたみたいに声が掠れた。
「頭が出ました!」
助産師の声が飛ぶ。
「奥様! 力んで、もっと!」
さらに強烈な波。
また身体が裂ける――そしてはっきりと、子どもが身体の外へ抜けたのがわかった。
最後の力を振り絞り、獣のような声を絞り出す。
「オギャアッ」
産声。
「男の子です」
江原朱美は虚ろな目でそれを見た。
藤原創の顔は、嫌悪で歪んでいる。
「先に薬を幸子のところへ運べ」
意味がわからない。
江原朱美は必死に手を伸ばし、彼のズボンの裾を掴もうとした。
「藤原創……薬って、何……?」
藤原創の口角が、残忍に吊り上がる。
「江原朱美。俺がこのガキを産ませたのが、愛だとでも思ったか?」
「幸子は身体が弱い。生まれたての赤ん坊の心臓が、薬引きに必要なんだ」
「それがなきゃ、とっくにお前も藤原玄哉もまとめて地獄で再会させてた」
「だが安心しろ。この私生児を欲しがる連中は多い。今日の競売は――こいつのために用意した」
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――この結婚は、決して偶然などではなかった。最初からすべて、彼が仕組んだ「執念の計画」だったのだ。













