第117章

結婚式の前日、江原朱美のもとに一通の手紙が届いた。

封筒は米白色の宣紙でできていて、差出人の名はない。右下の隅にだけ、万年筆で小さく「藤原」と書かれている。筆跡は妙に抑えらしく、いつもの乱暴な勢いがない。ひと画ひと画がきちんとしていて、力を入れすぎれば紙を突き破ってしまいそうだとでも思っているみたいだった。

朱美は鏡台の前に座り、その封筒を十分ほど見つめてから、ようやく封を切った。

中に入っていたのは、二つ。

ダイヤの指輪。

そして、署名済みの離婚協議書。

指輪は濃紺のベルベットに包まれていた。開いた瞬間、細かな光が壁に跳ねて、水紋みたいな虹が小さく揺れた。センターストーンは大き...

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