第119章

出産は、江原朱美が想像していたよりずっと順調だった。

陣痛が始まったのは午前2時。6時に破水し、8時に分娩室へ運ばれて、10時17分――赤ん坊の最初の産声が、朝の静けさを裂いた。

しわくちゃで真っ赤な小さな命を、助産師が胸の上にそっと置いた瞬間、朱美は全身の力がすうっと抜けていくのを感じた。けれど腕だけは、ぶれずに娘の背中を支えていた。

「おめでとうございます。可愛いお姫様ですよ」

朱美は腕の中の小さな子を見下ろす。

小さくて、柔らかくて。額には薄い胎脂が残り、短いまつ毛が濡れたまま瞼に貼りついている。

――その目が、ゆっくりと細い隙間を開いたとき。

朱美は、息を止めた。

切...

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