第16章

「まだ足りないのか?」

江原朱美の背後から、男の声が不意に落ちてきた。

朱美は答えない。胃の奥がむかつくのを、歯を食いしばってこらえる。

――絶対に、藤原創に妊娠を悟らせない。

この男は、いちど私たちの子を容赦なく傷つけた。

二度目なんて、許せるはずがない。

「誰か来い。降ろせ」

藤原創がそばの使用人たちに命じた。

数人が慌てて近寄り、朱美の縄を解く。

三日三晩、水も食べ物も与えられなかった身体は、限界だった。拘束が解けた瞬間、ぐらりと視界が揺れ、足がもつれて、頭から倒れ込みそうになる。

朱美は咄嗟に石柱へ手をつき、なんとか姿勢を立て直す。荒く息を吸い込み、肺がちぎれそう...

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