第29章

幸い――どうやら、彼女の考えすぎだったらしい。男は、もう戻ってこなかった。

その夜は、驚くほど静かに過ぎた。

けれど江原朱美にはわかっている。

これはただの、嵐の前の凪だ。

藤原創に男根で汚らしく陵辱されたあと、決まって江原幸子がやって来る。藤原創がそういうやり方で朱美を罰するのが、よほど気に入らないらしかった。

そして予想どおり、早朝。江原幸子は現れた。

顔色は最悪で、視線は獲物を品定めするそれ。

同行してきた看護師が数人、またしても電気治療の機械を運び込み、慣れた手つきで机に置いた。

「やっぱり。創に「潤されて」からのほうが、精神状態がマシになるのね」

江原幸子の顔は怒...

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