第34章

「藤原さん! もう人影が……ずいぶん遠いです!」

窓辺まで追ってきた使用人が、階下で小さくなっていく背中を見つめ、どうしようもない顔をした。

藤原創は拳を握りしめたまま、氷のような表情で視線を江原朱美へ落とす。

――今回は、怖くなかった。

中橋傑が去った。それだけで、胸の奥に張りついていた何かが、すうっと下りていく。

この世界に、まだ自分を気にかける人がいる。

ひび割れだらけの心に、わずかな温もりが差し込んだ。

「ウィリアム教授」

藤原創は朱美を怒鳴りつけたりはしない。ただ背後の男へ視線を向ける。

「すぐに心臓移植の段取りをしろ」

「ですが……」

ウィリアム教授は眉間に...

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