第37章

彼女の目の前に現れた男は、中橋傑ではなかった。

あの悪魔だ。

――藤原創。

手にしていたコーヒーカップが、ぱたりと床へ落ちる。

こぼれた黒褐色の液体が、じわじわと床板の上を這って広がっていった。

江原朱美は震えながら立ち上がり、一歩、また一歩と後ずさる。

藤原創は彼女をひと目見下ろした。

今にも燃え上がりそうな双眸には剥き出しの凶気が宿り、握り締めた拳は白く強張っている。歯を噛みしめる音さえ、ぎりぎりと聞こえそうだった。

もう以前のような紳士ぶった余裕など、どこにもない。

この女は、よりにもよって自分の目の前でこんな真似をしたのだ。

「ずいぶん度胸がついたな。俺を出し抜い...

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