第85章

江原幸子は車に乗り込み、江原家へ一直線に向かった。

アクセルを踏み込むたび、彼女の指先は書類袋をぎゅっと握りしめる。指の腹が白くなるほど。胸の奥では、押さえつけても溢れてくる陰りと恐怖が渦巻いていた。

袋の中に封じられているのは、かつての極秘人体実験施設に関する「完全な黒い記録」だ。そこには、江原明人の名がはっきりと記されている。

江原明人は、最初期の発起人の一人。

この件は長い年月のあいだ誰も口にせず、過去の埃の底に埋められていた。だが、もし藤原創がその端緒を嗅ぎつければ――抑え込まれていた記憶が、まるごと蘇る可能性がある。

そうなれば、罪も、発端も、すべてが江原家へ向かって矢の...

ログインして続きを読む