第11章

【5月11日/晴れ】

莉音がまた記憶を失った。彼女は俺を、かつて自分をいじめた人間だと妄想している。

俺を見るたび、彼女の瞳に浮かぶあの怯えた色に、胸が張り裂けそうになる。

彼女は俺が恋人だったことも、俺たちがどれほど愛し合っていたかも覚えていない。覚えているのは、彼女を傷つけたあのクソ教授のことだけだ。

これが彼女の自己防衛メカニズムだとは分かっている。医者が言うには、潜在意識のどこかで俺が決して彼女を見捨てないと知っているから、すべての恐怖を俺に転嫁しているのだと。

皮肉なものだ。俺が演じる役は、いつもろくなものじゃない。だが、それで彼女が少しでも安心できるのなら、そ...

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