第32章 苦しめるほうがまし

この女が涙をこぼすのを見るだけで、彼は苛立った。

龍崎燈真は出ていった。

一言も残さず、ただ背を向けて。鈴村茜はびくりと肩を震わせ、よろめきながら追いすがる。

「龍崎燈真……お願い……佳澄に手を出さないで……あの子を傷つけないで……」

足が言うことをきかない。数歩も進めないうちに、茜は床へ崩れ落ちた。

涙を溜めたまま、遠ざかる男の背中を見つめ続ける。

「お願い……お願いだから……」

温井千景が慌てて駆け寄り、茜を抱き起こした。痛々しいほど細い身体をそっと抱きしめ、心底つらそうに名を呼ぶ。

「茜……」

それから数日、茜は病院で療養することになった。

頭から離れないのは佳澄の...

ログインして続きを読む