私を地獄に落とした男は、私のいない未来を知らない

私を地獄に落とした男は、私のいない未来を知らない

美桜 · 連載中 · 277.5k 文字

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紹介

3年前、何者かの罠にはめられた鈴村茜は、妊娠していることを知った。

愛する恋人、龍崎燈真を思いながらも、彼のもとを去るしかなかった。

そして3年後。

白血病を患う娘を抱え、苦しい生活を送っていた彼女は、再び燈真と出会ってしまう。

かつて愛し合ったはずの男は、落ちぶれた彼女を容赦なく辱め、何度も追い詰めていく。

言い訳さえ許されず、心も体も傷つけられ、ついに心も体も限界を迎えた茜は、血の海に倒れ込む。

「燈真……これで、もうあなたに借りはないわ」

愛した男にすべてを奪われ、命さえ尽きようとしている彼女。

その最期の言葉を聞いたとき、燈真は何を思うのか。

そして彼は、すべてを失って初めて、自分が何を壊してしまったのかを知ることになる。

チャプター 1

「鈴村茜! 理由を言え! 別れるなら、せめて理由を言え!」

土砂降りだった。ざあざあと叩きつける雨音が世界を塗りつぶし、視界は白く滲む。

鈴村茜はその雨の中に立ち尽くしていた。唇から血の気が引き、顔色も真っ青だ。

濡れた髪が頬に貼りつき、全身がみじめに乱れている。

彼女は、目の前で必死に縋る男を、感情の抜け落ちた目でただ見つめていた。

男の黒い瞳には、絶望しかない。

――けれど、彼女だって同じだった。

「どうして……欲しいものは全部やる! なんで……なんで俺から離れるんだよ!」

龍崎燈真の問いが、何度も何度も降りかかる。

鈴村茜は冷たい息を吸い込み、淡く笑った。

「だって……もう、あなたを愛してない。別の人を好きになったの」

「誰だよ! 誰を好きになったんだよ! そいつは俺より、お前を愛してんのか?!」

「ええ。あの人は私を愛してる。私も、あの人を」

「……っ」

龍崎燈真が崩れ落ちるように膝をついた。

鈴村茜は思った。雨の日でよかった、と。

涙が落ちても、誰にも気づかれない。

彼と愛し合ったのは、まる五年。

夢の中でさえ、彼の花嫁になることばかり願っていたのに――。

なのに、彼女は……別の男の子を、身ごもってしまった。

ごめんね。

本当に、ごめん。

――

三年後。

水煙の漂うフロア。女たちが腰をくねらせ、媚びた視線を投げ、甘ったるい空気が充満する。煙草と酒の匂いが、理性を溶かしていく。

露出の多い服を纏った女たちは、VIP席に座る男たちの視線を奪おうと必死だった。

「龍崎様、ずいぶんD市に戻られてませんでしたよね。今回はどうして急に?」

啖呵を切るような顔つきの男――腹の出た地元の顔役が、前に座る人に媚びるように酒を注ぐ。D市の地元の連中でさえ、龍崎様には頭が上がらない。

龍崎燈真は顎に手を添え、目を伏せ気味にしていた。整いすぎた顔立ちは生まれつき冷たく、薄い唇がわずかに吊り上がる。

「龍崎様、せっかく戻られたんですし、美女でも呼びましょうか? 景気づけに」

その言葉に、龍崎燈真がゆっくりと目を上げた。

鋭い寒色の眼差し。そこに宿る邪気に、顔役は背筋が凍り、危うくグラスを倒しかける。

――そうだ。

龍崎様は初恋に捨てられてから、女を憎むようになった。

忘れていた。

「龍崎様、俺が悪い! 口が滑りました!」

龍崎燈真は答えない。薄い視線が男を越え、どこか遠い一点へ落ちた。

顔役が振り返ると、男に絡まれている女がいた。

龍崎燈真が指先を上げ、切れ長の目を細める。

「あれは誰だ」

「えっと……たぶん、端っこのモデルっすね。若くて水っぽい顔してるから、狙われてる」

「呼べ」

……

顔役は鈴村茜を引きずるように連れてきて、無理やり跪かせた。

何が起きるのかわからず、ただ不安に身を縮めていた鈴村茜は――真革のソファに座る、場違いなほど高貴な男を見た瞬間、息が止まった。

瞳孔が、はっと開く。

「龍崎様をしっかりおもてなししろ!」

龍崎様という呼び名を聞いた途端、身体が硬直した。

次の瞬間、顎が――男の靴先で持ち上げられる。

冷たく整った顔。鋭利な美貌に、どこか危うい邪気が滲む。全身黒で統一された装いが、圧を増していた。

男が唇を歪める。

「……やっぱりお前か。鈴村茜」

そして、氷のように言い放つ。

「……久しぶりだな」

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