第63章 彼に情をかけすぎた

あのときの彼は怒りで頭が沸騰していて、意識も霞んでいた。

だから――肝心なことを、すっかり思い出せずにいたのだ。

だとしたら、この子は……。

龍崎燈真は、息を呑んだ。

それを聞いた幸尾も、はっと目を見開く。

その瞬間だった。玄関のチャイムが、しつこいほど鳴り続ける。

幸尾が出ると、そこに立っていたのは鈴村茜だった。

「龍崎燈真!」

鈴村茜は薄い身体を引きずるようにして飛び込んできた。目は真っ赤に腫れ、焦点の合わない瞳から涙が止まらない。

「佳澄を返して!」

龍崎燈真は不機嫌そうに眉を寄せ、唇の前に指を立てる。声を落とした。

「寝てる」

鈴村茜は涙を溜めたまま、佳澄を抱...

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