第85章 婚約(3)

別の部屋。床には脱ぎ散らかされた服が散乱していた。

鈴村茜はゆっくりと目を開け、自分の身なりが乱れていることに気づいた瞬間、頭の靄が一気に引いた。

「起きた? 痛くしなかったよね?」

茜ははっとして顔を上げる。

黒崎由良は、いかにも満ち足りた笑みを浮かべていた。骨ばった指先で、やけに丁寧な手つきのままシャツのボタンを留めている。

――何が起きたのか。茜は、遅れて理解した。

脳天を雷で撃ち抜かれたみたいに、思考が止まる。

自分が……黒崎由良と……。

ぽとり。

一滴の涙が、頬を伝って落ちた。

黒崎由良が身をかがめ、指先でその涙を拭う。妙に優しい仕草だった。

「泣くなよ。もう...

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