第35章

男から漂う、清涼感のある冷ややかな香りがふわりと鼻をくすぐった。またあの男が絡んできたのかと焦った琴音は、反射的に相手を突き飛ばそうと手を振り上げる。

「離して!」

だが、その手首はあっさりと掴み止められた。

「俺だ」

頭上から降ってきた低く落ち着いた声に、琴音は弾かれたように顔を上げる。

司だった。

一瞬で安堵が広がり、全身から力が抜けてその場にへたり込みそうになる。

「九条社長……?」

司は彼女の肩をしっかりと支え、眉間を険しく寄せた。

「大丈夫か?」

琴音は首を横に振り、荒い呼吸を整えてから、先ほどの出来事を手短に説明した。

「お手洗いから戻る途中、従業員の方に絡...

ログインして続きを読む