第8章

私たちが足を踏み入れた瞬間、ボールルームは静まり返った。

あらゆる会話が途絶え、すべての視線が一斉にこちらを向く。C市の名士三百人が、まるで私たちが火星から来たとでも告げたかのように、呆然とこちらを見つめていた。

川端海斗は、オーダーメイドのタキシード姿が信じられないほど様になっていた。深いネイビーの生地は、まるで天使が仕立てたかのように彼の身体にフィットしている。まあ、私が支払った金額を考えれば、それもあながち嘘ではないだろうが。

『王子様なんかじゃない。王子様はひ弱だ。彼は、いくつもの王国を征服できそうな風格を漂わせている』

「藤井さん!」

春山和子さんが駆け寄ってきた...

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