第5章

窓の外で鳴くカモメの声で目が覚めた。一瞬、自分がどこにいるのか忘れていた――だが、すぐに現実が叩きつけられる。あの録音、この逃避行、そして沙織の謎めいたインスタグラムのメッセージ。

午前十時には身支度を済ませ、月見町の海沿いの遊歩道を散策しようと旅館のロビーを通り抜けていた。すると、通り過ぎようとした私をフロント係の万里子さんが呼び止めた。

「あら、お客様? 来客でございます」

血の気が引いた。「来客、ですか?」

「お若い女性の方で、とても上品な。二十分ほどお待ちかねです」

ゆっくりと振り返ると、彼女はそこにいた。

赤井沙織は、実物のほうがさらに息をのむほど美しかっ...

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