第9章

サイレンの音が、ナイフのように山の大気を切り裂いた。私は直人さんのジャケットにくるまり、岩だらけの地面に座っていた。救急隊員が私の擦りむいた手のひらを調べているのを眺めながら、パトカーの後部座席で手錠をかけられた沙織の姿を見つめていた。

彼女の洗練された社交界の名士然とした仮面は、もうどこにもなかった。髪は乱れ、デザイナーブランドのハイキングウェアは破れ、その顔は純粋な怒りで歪んでいた。彼女は窓越しに私を睨みつけ、唇を動かしている。きっと罵詈雑言を吐いているのだろう。

「録音装置が全部拾ってましたよ」松原刑事が、直人さんのデジタルレコーダーを掲げながら言った。「彼女が殺意を認め、犯...

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