第2話

翌朝、目が覚めるとすぐに三浦家の先代から呼び出しがあった。息子を連れて本宅へ戻れという。蓮は、パパがようやく時間を作ってくれたのだと無邪気に喜んでいた。「パパ、僕のピアノコンクールの打ち上げの話をしてくれるのかな?」

道中、蓮ははしゃいでいたが、私の胸のざわつきは収まらなかった。大広間に入ると、蓮が耳元で囁いた。「パパが叔母さんの手を引いてる。まるで夫婦みたいだ……叔母さんのお腹、また大きくなってるよ」

先代の声が冷酷に響いた。「栞、喜べ。美智子が懐妊した。我が家の掟に従い、浩介が次期組長の座を継承する。二人の子供が、この組織の正当な跡取りだ」

私は浩介の気配を探したが、彼は黙ったままだった。美智子の声がした。「浩介さん、やっとお父様になれるわね。嬉しい?」浩介は答えた。「ああ、お前と子を一生守る。良き父親になるよ」

私の心は鋭く刺された。「やっと」とはどういう意味か。私の息子は彼の子供ではないというのか。 「ママ……どうしてパパは知らない人を守るの? 僕たちのことは?」蓮の声が大広間に響き渡った。

「ふん、ただの隠し子の分際で、浩介を父親と呼ぶなど厚かましい!」浩介の従姉が嘲笑を投げかけた。「三浦家に跡取りは一人、美智子の子だけだ。身の程をわきまえろ」先代が追い打ちをかけるように叱りつけた。

広間は囁き声に包まれた。「盲目の女が産んだ隠し子が、何の用だ?」浩介の義母までもが言った。「栞、身寄りのない盲目のお前を拾ってやった恩を忘れるな。今日からお前はただの奉公人だ。家の掃除でもしていろ。そのガキも、ただの居候として置いてやる。嫌なら出て行け」

「僕は居候じゃない! 違う!」蓮が泣き叫んだ。彼らは私を後ろ盾のない女だと思い込んでいるが、私は一条家であることを隠していたのだ。私の3人の兄たちは、今や裏社会を牛耳る大物だ。

浩介が何か言いたげに口を開いた。「彼は隠し子じゃ……」だが、美智子の視線に射抜かれ、彼は言葉を飲み込んだ。「栞、子供を連れて帰れ。後で行く」

私は彼を見つめた。「浩介、今この瞬間、あなたとの縁は切れたわ」

立ち去ろうとした時、美智子の声が止めた。「待ちなさい。その腕のブレスレットを置いていきなさい。三浦家の正妻に代々伝わる品よ。それは私のものだわ」

それは、浩介がかつて私に贈った唯一の誓いの品だった。「浩介、あなたもそう思っているの?」 浩介は沈黙の後、言った。「すまない、栞。それが一族の決まりだ」

私は深く息を吸い込み、ブレスレットを外して机に置いた。蓮の手を強く引き、二度と振り返ることなくその場を去った。

帰宅後、私はすぐに京都の父に電話した。「お父様、戻ります。私には息子がいます。とても賢くて、素敵な子です」父の声が震えた。「本当か! 一条の血を引く孫がいるのだな。すぐに帰ってこい」

京都へ戻ることは、浩介との決別を意味する。「ママ、僕たち行くの?」蓮が私の手を握った。「パパ、僕のことが嫌いなんだね。ここにいたら、僕はパパのことをパパって呼べなくなる……そうでしょ?」

私は彼を抱きしめた。「ママの実家に帰るの。そこには、あなたを愛してくれるおじいちゃんや、かっこいい3人のおじさんたちがいるわ」「わかった」蓮は答えた。「でも、最後にお祝いだけしたい。パパ、約束してくれたんだ。ピアノで一番になったら、一緒にお祝いしてくれるって」

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