第115章 わざと焦らすつもりだ

エレベーターが1階に着いたとき、酒井蒼真の耳には、藤井愛美が何を言っているのかまるで入ってこなかった。返事もせず、そのまま階段へ向かって駆け下りる。

「蒼真、戻って!」

藤井愛美は追いかけようとして、ぐきりと足首をひねった。痛みに顔をゆがめ、立ち止まるしかない。悔しさに唇を噛む。

藤井心海には、いったいどんな魅力があるというのだろう。どうして酒井蒼真は、あんなにも彼女に執着するのか。

少し前まで、蒼真は心海を鼻で笑っていた。眼中にすら入れていなかったはずだ。それが今では、まるで宝物みたいに扱っている。

「……違う」

藤井愛美はその場に崩れ落ち、床に手をついたまま、か細い声でつぶや...

ログインして続きを読む