第62章 正式採用

藤井心海は椅子の上で固まった。背中を背もたれにぴたりと貼りつけたまま、自分の鼓動が異常なほど速いのがわかる。

松本淳太は、彼女の左右の肘掛けに両手をつき、逃げ道を塞ぐように身をかがめた。心海の全身が、彼の落とす影の中に沈む。

見下ろしてくる瞳の奥で、今まで見たことのない感情が渦を巻いていた。全身から滲むのは、危ういほどの気配。

近すぎる。近すぎて、吐息の熱が前髪をふわりと撫でるのを感じる。

「先輩……」

声がこわばった。無意識に椅子の縁をきゅっと掴む。

「……いったん、離れてください」

松本淳太は動かない。声はいつもよりずっと低く、胸の奥から押し出すみたいだった。

「心海。ま...

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