第64章 私たちは話そう

穏やかな日々が、もうすぐ一か月になろうとしていた。

F国は、いちばん過ごしやすい季節に入っている。

藤井心海の毎日は、規則正しい三点往復になった。マンション、研究所、図書館。

C3サブプロジェクトの実験は佳境に差しかかり、彼女と松本淳太は連日、実験室に深夜まで残った。パッチクランプのモニターに跳ねる波形を何時間も追い続け、目の奥がじんと痺れるほどに。

その日の夕方も、失敗続きのデータからようやく顔を上げ、凝り固まった首筋を揉んだ瞬間だった。スマホがぶるりと震える。

表示された名前に、心海の目がぱっと明るくなる。坂本紗彩。

「紗彩!」

電話に出た声は、自分でもわかるくらい弾んでい...

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