第67章 断食

松本淳太はスマホを握る指に、ぐっと力を込めた。

これまで、ずっと返事をしなかった。

あの道だけは選びたくなかったのだ。

汚れのない研究者としての経歴。教授からの期待。自分で引いた人生のレール。

――だが今、彼は藤井心海の、がらんとしたマンションに立っている。

研究実績だの、歩んできた道だの、誇れる肩書きだの――そんなもの、何になる。

彼女ひとり守れないなら、全部に意味なんてない。

「あなたが言ってた件、真剣に考える。でも、その前にひとつ頼みがある」

『言え』

「人を探してほしい。今すぐ。すぐにだ」

受話器の向こうで、男が笑った。

『簡単だ。大世に連絡させる』

通話が切...

ログインして続きを読む