第73章 離婚する

翌日、酒井蒼真がまた現れた。

どうやって潜り込んだのか、神経科学部門の区画にまで入り込み、実験室のガラス越しに、黙々と手を動かす藤井心海を覗き込んでいる。

藤井心海はマーカスのために、パッチクランプ装置のキャリブレーションをしていた。

ふと顔を上げた彼女の視界に、ガラス扉の向こうの酒井蒼真が入る。

酒井蒼真は扉を押し開け、そのまま藤井心海の正面まで歩み寄った。

「心海、帰るぞ」

静まり返った実験室に、その声だけが不釣り合いに響いた。機器のかすかな駆動音さえ、その一言で途切れたように感じる。視線が一斉に集まる。驚き、軽蔑、そして露骨な警戒と庇護。

藤井心海はつまみから指先を離さな...

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