第79章 男たちの泥沼マウント合戦

通りすがりの人だと思った。けれど、その影は彼女の前でぴたりと止まり、動かない。

藤井心海が顔を上げると、立っていたのは酒井蒼真だった。

黒いバッグを提げ、黒のスーツジャケット姿。

ただ、どこか慌ただしくて、ネクタイは結ばれていない。

「心海?」

酒井蒼真は、ちょうどいい塩梅の驚きを声に混ぜた。

「こんなところで。君も帰国?」

藤井心海は無表情のまま彼を見て、盛大に白目をむきたくなる。

白々しい。そんな都合のいい偶然があるわけない。

「ほんと、偶然ね」

感情の欠片もない声で返す。

酒井蒼真は口元をわずかに持ち上げ、彼女の背後を指した。

「俺の席、ここなんだ」

「だから...

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