第86章 お前は間違いを知ったのではない、怖さを知ったのだ

「悪いけど、取り下げは無理」

藤井心海はスマホを脇へ置くと、爪やすりを手に取り、爪先を整えはじめた。表情はどこまでも他人事だ。

「藤井さん、少しは法律を勉強したらどう? 私は被害届を出すことはできても、取り下げる権限なんてないの。仮にできたとしても、私は取り下げない」

「あなたは口を開けば『藤井愛美は妹なんだから、そんなことするな』って言うけど……じゃあ、あの子は私に何をしてきたの? 忘れたの?」

「自業自得よ」

藤井母は歯を食いしばった。

「アンタみたいなクズ、誰にだって踏みつけられて当然。愛美はやるべきことをやっただけ。何が不満なの?」

覚悟はしていた。けれど、その言葉は―...

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