第89章 飛んで火に入る夏の虫

けれど、その針は酒井蒼真の胸に刺さったまま、いつまでも波紋を消さなかった。

自分が間違えたのは認める。だが、それほどまでに罪深いことをしたのか?

ただ、やり直す機会が欲しかっただけだ。なのに藤井心海は、そんな機会すら惜しむように与えない。

どうして?

それとも――彼女の中に、もう自分への愛は欠片も残っていないのか。

その考えが浮かんだ瞬間、酒井蒼真の心臓がどくんと跳ねた。

だめだ。

自分は藤井心海がいちばん愛している男だ。これまでも、これからも。

誰にも、藤井心海の心から自分を押し出させはしない。

藤井心海は会社を出た途端、胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。

ひとまず、こ...

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