第9章

「もっと上げて。あいつの臭いで、今夜の客を不快にさせたくない」

私はワイングラスを指の節で、こつ、と叩いた。魔術師塔の暗金の法力鎖がきりきりと収縮し、宙に張られた透明結界を容赦なく引き上げて、天蓋の水晶シャンデリア直下へ叩きつけるように吊り上げる。

今日は魔術師塔にとって、この紀元でもっとも盛大な日だ。

大陸中の貴顕と領主が広間で声を潜め、言葉を交わしている。ここは絶対権力の場。誰ひとり、憐れみなど見せない。頭上で黒い血を滴らせる残骸が揺れていても、視線すら上げようとしなかった。

ケイルは地上十メートル、結界の光膜の中に吊られている。

イグニスの呪いは残酷だった。瞼を閉じる権利を奪...

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