「予期せぬ来訪者」

千葉がタブレットを閉じた。廊下の足音が消えると、最上階はまたあの静けさに戻った。無音ではない。精密に制御された静けさだ。空調の風音さえ、音量を調整されたように均一だった。

 

朔は落地窓の前に立ったまま、動かなかった。

 

背後に回していた手を下ろし、指先が無意識に掌をなぞった。今日、彼女が袖を掴んだ場所だった。

 

視線を落とした。何もない。

 

踵を返し、デスクへ歩いて腰を下ろし、閉じていたファイルを再び開いた。

 

——事務所のエントランスホールが落ち着かない空気になり始めたのは、午前八時五十分のことだった。

 

祈が出勤したのは八時四十分で、いつもより十分早かった。港区の最上階の客室で...

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