「茶色の熊のぬいぐるみ」

声は思っていたより大きく出た。

 

朔は動かなかった。ただバックミラーに一瞬視線を向けた。車はすでに減速を始め、静かに路肩へ寄っていった。

 

「何が見えた?」朔が言った。

 

「あそこ」

 

祈は指先を車窓に当てた。コンビニの軒下、ちょうど灯りの届かない場所に、小さなぬいぐるみの屋台があった。棚の端に、茶色い小熊が一体、静かに座っていた。薄黄色の光を受けていた。

 

「あのクマ」

 

朔が祈を見た。一秒。

 

「買いに行くか?」

 

「買ってきてください」

 

車内がしばらく静まった。千葉の背筋がわずかに固まった。朔が後部座席にいても、それは伝わった。

 

朔は何も言わず、ドアを開けた。

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