「落とし穴」

箸が宙で止まった。

祈は先月生理が来たはずだと口を開きかけたが、記憶が急に絡まった。残業、夕飯の支度、泊まらざるを得なかった夜——すべてが一塊に押し込まれて、正確な日付がどうしても思い出せない。

「……大丈夫、ちょっと胃の調子が悪いだけ」

紬はそれ以上追及しなかった。だが、あの確信に満ちた目が、祈りの午後をまるごと落ち着かないものに変えた。

夕方、祈は薬局の前に立っていた。自動ドアが通行人に合わせて開閉するたび、冷気が足首を撫でていく。妊娠検査薬は三列目の棚にある。数週間前に緊急避妊薬を買ったとき、視界の端で捉えていた。

けれど足が動かない。

緊急避妊薬は飲んだ。あの朝、ホテルを出...

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