「掌に宿る決断」

朔はすぐには答えなかった。視線はセーヌ河畔の灯りに向けられたまま、左手の黒い革手袋の指の隙間を無意識に擦っている。

「断る」

天気を告げるような平坦な声だった。

電話の向こうで三秒の沈黙。格の笑い声が響いた。低く緩やかで、年老いた猫が喉を鳴らすように。

「これは相談じゃないぞ。白河家のリソース、取締役会の議席——お前一人のものじゃない、神宮家のものだ。あの椅子に座っているからといって、好き勝手できると思っているのか?」

「試してみますか」朔は振り返り、ガラス窓に背を預けた。口元に冷笑が浮かぶ。「叔父上、前回お試しになったとき、結果はどうでしたっけ」

短い静寂。呼吸が一拍重くなった。...

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