「距離と体温」

朔は少しの間黙り込み、口を開いた。

「そんなに大袈裟な反応をするなら、お前が一人で住むのは心配だ」

「自分のことは自分でできます」

祈は手の甲で口元の水滴を拭い、声は掠れていたが、語気は一歩も譲らなかった。

朔は数秒間彼女を見つめ、それ以上は押さなかった。踵を返し部屋を出ると、背後でドアが静かに閉まった。

祈は洗面台に手をついたまま長い間立っていた。

明日。明日にはここを出られる。

翌日の夕方、祈はキャリーケースを引いて社員寮三階の単身部屋に足を踏み入れた。

六畳。ベッドが一台、机が一つ、小さなクローゼット。窓は南向き。

窓を押し開けた。風が吹き込み、初夏の温度を運んできた。...

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