「お前が泣いていたから」

「……離せ」

二人の男が手を放した。

久保は煙草を指に挟んだまま目を細めた。「ハッタリだったら——」

言葉が途切れた。地下入口の方角から、揃った足音が響いてくる。リズミカルに、重く速く、革靴がコンクリートの階段を叩く音。

格闘場の喧騒が、ミュートボタンを押されたように消えた。

階段口に七、八人の黒いスーツの男たちが現れた。最後に降りてきたのは——黒い革手袋、ダークグレーのカシミアコート、この地下室の温度よりも冷たい表情。

朔。

その視線が場内を一掃し、祈りの上空で止まった。上から下へ。立っていることを確認する。衣服が無事であることを確認する。

それから、その目が久保に移った。

...

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