「硝子の爪」

午前一時十七分。

広尾私立病院三階の廊下には音がほとんどなかった。ナースステーションの方向から、時折キーボードを叩く微かな音が聞こえるだけだった。

梢は角の影に立っていた。

昼間のコートは脱ぎ、深い藏青色のトレンチコートで全身を包み、髪を下ろし、化粧もしていなかった。

それでも、薄暗い廊下に立つ彼女は、ある種の無視できない端正さを保っていた。

もう五時間ここに立っている。

三〇七号病室のドアはずっと閉まったままだったが、ドアの隙間から一筋の暖かい黄色い光が漏れていた。

面会時間はとうに過ぎ、一般の見舞客が病室に泊まることはありえない。

だが朔にはできる。

梢は午後からずっと観...

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