「腕の中の不眠」

朔は答えなかった。踵を返して病室に戻っていった。

渉はその背中がドアの向こうに消えるのを見届けた。白衣のポケットに両手を突っ込み、長く息を吐いた。

朔は認めたくないのではない。認めてしまえば離れられなくなる。そして「離れられない」という事実は、すべてを掌握してきた人間にとって、外部からのいかなる攻撃よりも致命的だった。

三十年間、自分をあの殻の中に閉じ込めてきた。今、一人の人間がその殻にひびを入れた——感謝と恐怖が同時にある。

渉は首を振り、廊下をエレベーターの方向へ歩いた。ナースステーションの前で足を止めた。

「三〇七号室の患者ですが、直系親族以外の人間が診療記録を照会しに来た場合...

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