「腕の中の不眠」
朔は答えなかった。踵を返して病室に戻っていった。
渉はその背中がドアの向こうに消えるのを見届けた。白衣のポケットに両手を突っ込み、長く息を吐いた。
朔は認めたくないのではない。認めてしまえば離れられなくなる。そして「離れられない」という事実は、すべてを掌握してきた人間にとって、外部からのいかなる攻撃よりも致命的だった。
三十年間、自分をあの殻の中に閉じ込めてきた。今、一人の人間がその殻にひびを入れた——感謝と恐怖が同時にある。
渉は首を振り、廊下をエレベーターの方向へ歩いた。ナースステーションの前で足を止めた。
「三〇七号室の患者ですが、直系親族以外の人間が診療記録を照会しに来た場合...
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チャプター
1. 「名も知らない朝」
2. 「苦い朝と、夜の檻」
3. 「夜の残響」
4. 「悪阻」
5. 「無視できない意外」
6. 「四十七階の男」
7. 「衝突路地の真相」
8. 「迫る正体」
9. 「距離と体温」
10. 「切れた街灯の下」
11. 「縁」
12. 「夜の宿りと、解けた緊張」
13. 「静かな陥穽」
14. 「彼女の疑惑」
15. 「負い目の清算」
16. 「境界線」
17. 「裸足の夜」
18. 「薔薇垣の影」
19. 「強引な保護」
20. 「予期せぬ来訪者」
21. 「ゼロの援軍」
22. 「取り繕えない夜」
23. 「二つの顔」
24. 「茶色の熊のぬいぐるみ」
25. 「夜景の名前」
26. 「夜明けの輪郭」
27. 「宿縁の停車」
28. 「信頼の行方」
29. 「濡れ衣の瞬間」
30. 「明かされた身分」
31. 「距離と鼓動」
32. 「落とし穴」
33. 「掌に宿る決断」
34. 「母の残像」
35. 「灯が消えるまで」
36. 「距離と体温」
37. 「隣人」
38. 「誰かの名前」
39. 「外人」
40. 「値段」
41. 「産声の前に」
42. 「手術台の上で」
43. 「手術台」
44. 「答え」
45. 「凍りついた地下室」
46. 「お前が泣いていたから」
47. 「空穴来風」
48. 「夜明け前の温度」
49. 「崩落」
50. 「硝子の爪」
51. 「腕の中の不眠」
52. 「届かない手」
53. 「届かない電波」
54. 「手のひらの血痕」
55. 「ただいま」
56. 「隣に立つ覚悟」
57. 「宣戦布告」
58. 「全世界を敵に回しても」
59. 「桃花三輪」
60. 「火の記憶」
61. 「梅雨」
62. 「微熱の残像」
63. 第63章「残夢と指輪の予兆」
64. 「未完成の弧の指輪」
65. 「交わらぬ思い」
66. 「凛月庵の朝」
67. 「触れられない」
68. 「帰りを待って」
69. 「五十九秒」
70. 「サプライズ」
71. 「本当の理由」
72. 「箱根の一夜、別れの河川敷」
73. 「天使の刃」
74. 「靴箱の横」
75. 「照烧チキンの弁当」
76. 「借り物の黒いドレス」
77. 「静かな失望」
78. 「洗面所の鍵」
79. 「白いシャツの衿」
80. 「手首の銀の鎖」
81. 「横浜行き」
82. 「招待状のない夜」
83. 「行くな」
84. 「条件」
85. 「記憶の破片」
86. 「封印された記録」
87. 「路地の刃と差し伸べた手」
88. 「崩れた嘘」
89. 「仮面の崩壊」
90. 「見えない糸」
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