「全世界を敵に回しても」

格の声は低く、語速は極めて遅かった。

「朔。お前は本当に、あんな女のために——神宮家全体を敵に回すつもりか」

廊下の両側にはすでに数名の招待客が集まっていた。遠くでグラスを手にしたまま眺めている者もいて、ひそひそ声があちこちで上がっている。

朔は足を止めなかった。格の前三歩の距離で立ち止まり、右手を後ろに伸ばして祈を前に引き寄せ、腰に腕を回した。

祈の背中が朔の胸に当たった。手袋の革の感触がドレスの薄い生地越しに伝わってくる。力は安定していた。

朔の声は大きくなかったが、静まり返った廊下では十分に届いた。

「彼女のためなら、世界中を敵に回しても構わない」

周囲のささやきが一瞬で消...

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