「火の記憶」

朔は動かなかった。掌が祈の背中に当たったまま、続きを待っている。

「六歳のとき、燎が家で転んで怪我したの。額を五針縫った」祈の声は軽かった。

「文乃に、私が弟に祟ってるって言われた。次の日、民間の孤児院に預けられた」

朔の親指が肩甲骨の上で止まる。

「一ヶ月。燎が治ったら迎えに来るって」

暗闇の中に二人の呼吸音だけが漂っていた。祈の指は朔の胸元のパジャマを掴み、関節が白くなっている。

「その一ヶ月の間に、火事があった」

朔の体にごく微かな変化が走った。腕は緩めないまま、筋肉だけが張り詰める。

「夜中に煙が入ってきて。廊下が煙で真っ白だった」

祈は目を閉じたままだった。

「部...

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