「交わらぬ思い」

午前十一時、祈は箱根・凛月庵に到着した。

旅館の正門前に、すでに一人の男が立っていた。三十五歳前後、スーツをきちんと着こなし、ネクタイピンが冷たい光を反射していた。

「浅野さんでいらっしゃいますか。初めまして、西園寺隆一と申します。倉本理绪の私設助理を務めております」

お辞儀の角度は申し分なかった。丁寧だが、温度がなかった。

西園寺は祈を茶室へ案内し、抹茶と菓子が運ばれてくると、凛月庵の歴史をゆっくりと語りはじめた。大正期の建築技法、庭園の枯山水の構成、廊下の角に残る原木の梁構造。一つひとつが細密で、一つひとつが祈に同じことを気づかせた——今日中には見終わらない。

午後二時、西園寺が...

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