「触れられない」

朔は床尾に立った。座らず、答えなかった。

沈黙が数秒続いた。格がようやく目を上げ、口の端にわずかな弧を描いた。

「黙っているということは、娘のためということにしておきましょう」格の視線が朔の顔に据わった。「せっかくですから——朔、浅野誠一という名前が神宮家の帳簿にどうして載っているか、知っていますか」

朔の目が、ほんの一瞬、静止した。

格はその変化を見逃さなかった。その小さな揺らぎを味わうように、ゆっくりと続けた。

「五年前、神宮地産に下請けの建材供給契約がありました。埼玉県の浅野建材という小さな会社が受注していた」

一拍置いた。

「その会社の法人代表が——浅野誠一です」

朔が...

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