「箱根の一夜、別れの河川敷」

指の爪が、ドア枠の塗装に食い込んでいた。

飛び込んで、あの夜のすべてを話してしまいたい——そう思った。でも目を閉じると、真相を知った朔の顔が浮かんだ。どんな罰より重い顔が。

祈は答えなかった。

朔が一歩、敷居をまたいだ。手が祈の手首を掴む。力は強くない。けれど、振り払えない。

「箱根から帰ってきてから、ずっとおかしい」低い声が耳元に落ちてくる。額に触れそうなほど近かった。「何があった」

祈は視線を逸らした。唇の色が失われていく。

もう一方の手が顎を掴み、強制的に顔を上向かせた。

「あの夜、箱根で——」

祈の瞳孔が縮んだ。その一瞬の恐怖は、何の遮蔽物もなく剥き出しになった。

朔...

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