「洗面所の鍵」

「屹、頭が真っ白になっただけで——」

「ホテルまでお送りします」屹の声は穏やかなままだったが、もう親しみの温度がなかった。「今夜はここまでにしましょう」

祀奈は下唇を噛んだ。今夜のために準備したすべてが、無駄になった。

ホテルの車寄せで、屹は運転手に祀奈を乗せるよう伝えた。

「一緒に帰らないの?」祀奈が最後に声をかけた。

「用があります」屹はドアを開けた。「おやすみなさい」

車のドアが閉まった瞬間、祀奈は唇を強く噛んだ。しかし心の中で確信していた。薬はもうすぐ効いてくる。屹の方から連絡が来るはずだ。

屹はその車が走り去るのを見送り、自分のベントレーに乗り込んだ。

車がホテルの車...

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